長期運用に不可欠なインフラ資産に機関投資家の関心高まる、IFMインベスターズが日本オフィス開設10周年
世界第4位のインフラ投資・運用会社であるIFMインベスターズが日本にオフィスを開設して10周年を迎えた。折から、米国の関税政策によって世界の株式市場が大きな波乱となり、世界的に「ゴールド(金)」などがリスクヘッジの手段として注目を集めるようになっている。IFMが得意とする非上場のインフラ投資資産も株価変動や世界の景気変動の影響を受けにくい安定的な収益資産として注目度が高まっている。5月15日に東京で開催された「IFMインベスターズ・ジャパン 設立10周年記念セミナー」には国内の年金基金や金融機関などの機関投資家の担当者が多数参加し、IFMインベスターズが発信する最新のインフラ投資情報に熱心に聞き入っていた。
IFMインベスターズは、働く人々の退職資金を長期にわたり、投資・保護・成長させることを目的としてオーストラリアの複数の年金基金が株主となって30年以上前に設立された。インフラストラクチャー・エクイティおよびデット、上場株式、プライベートエクイティ資産を対象に運用を行い、2024年12月末時点の運用資産総額は2300億豪ドルになっている。同社はメルボルン、シドニー、ロンドン、ベルリン、チューリッヒ、アムステルダム、ミラノ、ワルシャワ、ニューヨーク、ヒューストン、香港、ソウル、東京のオフィスを拠点にグローバルに事業を展開し、世界で第4位のインフラ資産の投資会社だ。IFMインベスターズのグローバル・クライアント・ソリューションズ部門のグローバルヘッドであるジョン・ジーグラント氏は「上位の3社は株式を上場している企業であるため、四半期ごとの決算で株主からのプレッシャーにさらされている。真に投資家の立場に立って長期の運用にコミットできるのは非上場企業であるIFMの強みだ」と語った。
また、IFMインベスターズの最高経営責任者(CEO)であるデイビッド・ニール氏は2025年2月に英国最大の加入者数を誇る年金制度であるNest(国家雇用貯蓄信託)がIFMの30年の歴史において唯一のオーストラリア国外の株主となることで合意したことを紹介し、「IFMのオーナーシップこそが、多くの退職者の年金資産を長期にわたって運用するという目的のための最善の策であることを証明する歴史的なできごとだった」と語った。また、NestがIFMに出資してまでインフラ投資資産の拡大を計画しているように、長期で安定的な収益を確保する資産としてプライベートなインフラ投資資産はエクイティもデットも非常に魅力的な資産であることを強調した。
セミナーでは、IFMのチーフ・エコノミストであるアレックス・ジョイナー氏が「マクロ経済の展望とプライベートマーケットへの影響」をテーマに講演し、米トランプ政権の関税策が世界経済に与える影響を中心に語った。ジョイナー氏は、世界の貿易に対して「2世紀ぶりの変化」になるであろう関税策の落ち着きどころを慎重に見極める必要があるとしたが、既に投資の世界においては「公開市場が大きな混乱の中にあるため、比較的変動の小さいインフラ資産などの非公開市場に資金を移動させる動きが続いている」と現状を解説した。また、近年は、株式市場と債券市場の連動性が高まった関係で、伝統的な分散投資ポートフォリオである「株式60%、債券40%」のようなポートフォリオ運用では価格変動リスクを回避することが難しくなっており、年金基金などの機関投資家の間では「プライベート資産を戦略的に組み入れることによってレジリエンス(回復力・弾力)を高めることが一般的になりつつある」と紹介した。
また、インフラストラクチャー運用部門のグローバルヘッドであるカイル・マンジーニ氏は、「IFMインベスターズのインフラストラクチャー運用」をテーマにオンラインで講演し、「インフラ投資で成功をするためには、投資先の地域において信頼されるパートナーとして認めてもらうことが非常に重要」と語り、地元政府と協力関係を作ることが信頼関係の礎になると語っていた。また、投資対象は空港などのインフラ施設の他に、再生可能エネルギーの発電施設、AI(人工知能)の発展に伴って大きな需要があるデータセンターやそのデータセンター向けの電力施設など世界中に投資の機会は広がっていると語っていた。「インフラは、これで十分ということには決してならない。常に求められるのがインフラであり、さらに、近年では古くなったインフラの再投資の需要が急速に高まっている。向こう5年を考えるとデータセンターの開設などといった新しいインフラ投資案件よりも既存のインフラを更新する再投資の需要がメインになるだろう」と語っていた。
そして、インフラストラクチャー運用部門のエグゼクティブ・ディレクターであるウェイ‐サン・テー氏が「米国新政権がインフラ市場に与える影響」をテーマに講演し、テー氏は「トランプ政権の2期目は、エネルギー移行の遅延を伴うなど、米国のエネルギー政策の方向性を大きく転換させることが予想される」としてインフラ投資に少なくない影響があると語った。
インフラストラクチャーデット運用のEMEA・オーストラリアヘッドのデイビッド・クーパー氏が「インフラデット市場における魅力的な投資機会」を語った。クーパー氏は「低いデフォルト率、高い回収率、そして、予測可能なリターンがインフラデットに期待される役割」と語り、多様な投資機会があるものの、流動性に乏しく買い入れや売却に数カ月要するような資産であるため、投資にあたっては専門家の育成が重要になると語っていた。
最後に閉会のあいさつをしたIFMインベスターズ・ジャパン在日代表の正田雄二氏は、「多くの機関投資家の方々がインフラ投資についてリスク管理の手段の一つとして重要視していることが明らかなため、8月に改めてリスク管理にポイントを置いたセミナーを開催する予定」と紹介した。そして、「オフィス開設から10年で日本においても多くの信頼できるパートナーに支えていただけるようになった。次の10年をさらなる成長の機会にしたい」と語った。
サーチナ
最終更新:5/21(水) 11:12