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直近の決算や長期計画から読み解く、商船三井の成長性

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  • 2025/05/28 11:10
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  • ■商船三井の直近の決算から読み取れること
    商船三井は、日本の大手海運3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)の一角であり、2025年3月期決算は、売上高1兆7,754億7,000万円(前年同期比9.1%増)、営業利益1,508億5,100万円(46.3%増)、経常利益4,197億300万円(62.1%増)、親会社に帰属する当期純利益4,254億9,200万円(62.6%増)と、増収・大幅増益を達成した。
    この好調な業績の最大の要因は、持分法適用関連会社であるOcean Network Express (ONE) が運営するコンテナ船事業が、紅海情勢を背景とした運賃高騰の恩恵を受け、大幅な増益を達成したことにある 。さらに、期中平均為替レートが前期比で9.36円の円安(1米ドル=152.79円)となったことも、外貨建て収益の円換算額を押し上げる形で利益に貢献したと言えよう。
    しかしながら、2026年3月期はコンテナ船市況の正常化により大幅な減益を見込んでおり、この記録的な利益水準は、一過性の要因や特定の事業セグメントへの高い依存度を反映している点に留意が必要である。特に、コンテナ船事業からの経常利益貢献額は2,176億円と、連結経常利益全体の半分以上を占めており 、このセグメントの市況変動がグループ全体の業績に与える影響の大きさが際立っている。これは、海運市況の変動リスクに対する脆弱性を示唆しており、商船三井が「BLUE ACTION 2035」で目指すポートフォリオの多角化と安定収益基盤の強化が、いかに重要であるかを物語っている。


    ■成長のカギを握る長期経営計画「BLUE ACTION 2035」の進捗と展望
    商船三井は、2035年度を最終目標年次とする13カ年の中長期経営計画「BLUE ACTION 2035」を2023年度より推進している 。本計画は、従来のローリング方式の経営計画から脱却し、商船三井グループが「グローバルな社会インフラ企業」へと飛躍するための大きな方向性を示すものである。目指すのは、海運市況の変動に左右されにくい強靭な事業ポートフォリオを構築し、持続的な成長と企業価値向上の実現である。
    計画では、2035年度の財務目標として、税引前利益4,000億円、総資産7.5兆円、ROE9~10%を掲げている 。事業ポートフォリオの構成については、市況享受型事業と安定収益型事業のアセット比率を現状の50:50から40:60へ、また海運事業と非海運事業のアセット比率を現状の75:25から60:40へと転換することを目指している。
    計画は3つのフェーズで構成され、現在進行中のフェーズ1(2023~2025年度)では、当初1.2兆円の投資を計画していたが、既に1.88兆円の投資意思決定を行うなど、計画を上回るペースで戦略投資を実行している。

    1)ポートフォリオ戦略:非海運事業・安定収益型事業の強化
    「BLUE ACTION 2035」において商船三井は、市況変動に影響されやすい伝統的な海運事業からの依存を低減し、安定した収益を確保するため、非海運事業と安定収益型海運事業へのシフトを進めている。目標として、2035年度には非海運事業からの利益を現状の約320億円から1,200億円(全体の30%)に拡大することを掲げている。これを実現するために、米国のFairfield Chemical Carriers社の買収、ダイビルおよび宇徳の完全子会社化、ベルギーのLBC Tank Terminals社の買収など、積極的なM&Aを通じた投資を進めている。2026年度にはコンテナ船事業の減益が予想される中、これらの非海運事業が業績を下支えし、商船三井の成長戦略の鍵となる。

    2)環境戦略:脱炭素化への挑戦
    商船三井は、国際海運における脱炭素化に積極的に取り組み、「環境ビジョン2.2」を策定し、2050年までにグループ全体でのネットゼロ・エミッション達成、2035年までに輸送GHG排出原単位を2019年度比で45%削減するという野心的な目標を設定している。
    この目標達成のため、商船三井は次世代燃料船への転換を加速させている。既にLNG燃料船の導入を拡大しており、2025年3月には日本郵船に次いで、邦船社として初めてバイオLNG燃料を使用した外航船の運航を開始した。バイオLNGは、ライフサイクルベースでのカーボンニュートラル実現の可能性を秘めており、既存のLNGインフラを活用できるメリットもある 。さらに、将来のゼロエミッション燃料として期待されるアンモニアやメタノールを燃料とする船舶の開発・導入にも注力しており、世界初のアンモニア燃料ケープサイズバルカーおよびケミカルタンカーの整備を進めている。
    また、風力を利用した推進装置「ウインドチャレンジャー」を搭載した10万トン型石炭専用船「松風丸」が2022年10月に竣工した。2024年4月までの約18ヶ月にわたり、主にオーストラリアやインドネシア、北米などと日本の往復計7航海の石炭輸送に従事し、実航海で1日最大17%の、1航海において平均5%~8%の燃料節減効果を達成した。
    2023-25年度の3年間で計6,500億円規模の環境投資が計画されており、相当な規模となっているところに、商船三井の本気度がうかがえる。
    これらの取り組みは、短期的なコスト増要因となる可能性もあるが、長期的に見れば、環境規制の強化に対応し、顧客からの「グリーン輸送」への要求に応えることで、商船三井の競争力維持・向上に不可欠な投資である。環境技術におけるリーダーシップを確立することは、将来的な「グリーンプレミアム」の獲得や、ESG投資家からの評価向上にも繋がる可能性がある。

    3)DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略
    商船三井は、事業運営の効率化、安全運航の強化、そして新たな価値創造を目指し、DX戦略を積極的に推進している。
    具体的な取り組みとしては、全運航船のデータを活用して安全運航の向上と環境負荷低減を図る統合システム「FOCUSプロジェクト(Fleet Optimal Control Unified System)」の開発・運用 や、AIを活用した船員配乗計画の最適化 などが挙げられる。これらのDX施策は、単なるコスト削減に留まらず、従業員の業務時間を定型業務からより付加価値の高い業務へとシフトさせ、データに基づいた迅速な経営判断を可能にすることを目指している。
    DXの推進は、商船三井が「BLUE ACTION 2035」で掲げる事業ポートフォリオ変革や環境戦略の達成を支える重要な基盤となる。運航効率の改善は燃料消費量の削減、すなわちGHG排出量の削減に直結し、データ活用による新たなサービス開発は非海運事業の成長にも貢献し得る。

    4)その他の有望な新規事業と成長ドライバー
    「BLUE ACTION 2035」の枠組みの中で、商船三井は既存事業の強化に加え、新たな成長ドライバーの育成にも注力している。

    a)ウェルビーイングライフ事業の拡大: 特にクルーズ事業は、新造船「MITSUI OCEAN FUJI」の就航により2隻体制での本格稼働が予定されており、今後の成長が期待される分野である。富裕層やアクティブシニア層を中心とした国内クルーズ市場の開拓を目指している。

    b)物流事業のグローバル展開: 特に成長著しい東南アジア地域における物流インフラへの共同開発・投資事業への参画など、グローバルな物流ネットワークの拡充を進めている。

    c)洋上風力発電関連事業: サプライチェーン全体での関与を深め、設置支援船の保有・運航やO&M(運用・保守)サービスの提供など、再生可能エネルギー分野での事業機会を追求している。

    d)次世代燃料サプライチェーン構築: アンモニアや水素といった次世代クリーンエネルギーの海上輸送および供給インフラの構築に積極的に関与し、将来のエネルギー転換期における新たな収益機会を捉えようとしている。

    これらの新規事業は、まだ収益貢献の規模は小さいものの、商船三井が目指す「グローバルな社会インフラ企業」への変革を象徴する取り組みであり、長期的な成長ポテンシャルを秘めている。特にクルーズ事業は、初期投資や準備費用が先行しているが、軌道に乗れば安定的な収益源となる可能性がある。

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  • ■大手海運3社の2025年3月期決算の業績比較
    昨年の海運各社はコンテナ船事業の歴史的な業績好調と円安の恩恵を受けたことにより過去最高の経常利益を達成した。
    商船三井日本郵船川崎汽船の2025年3月期の決算数値を以下に記載する。
    ※数字は各社の決算報告書より抜粋、川崎汽船の利益率は、売上高に対するONE(Ocean Network Express)社の持分法投資利益の構成比が他2社と比較して高いことなどから、経常利益段階で非常に高くなる傾向がある。営業利益率も同様に高めである。

    直近の決算や長期計画から読み解く、商船三井の成長性 ■大手海運3社の2025年3月期決算の業績比較 昨年の海運各社はコンテナ船事業の歴史的な業績好調と円安の恩恵を受けたことにより過去最高の経常利益を達成した。 商船三井、日本郵船、川崎汽船の2025年3月期の決算数値を以下に記載する。 ※数字は各社の決算報告書より抜粋、川崎汽船の利益率は、売上高に対するONE(Ocean Network Express)社の持分法投資利益の構成比が他2社と比較して高いことなどから、経常利益段階で非常に高くなる傾向がある。営業利益率も同様に高めである。

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